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カチャカと家具のデザイン:Takram代表 田川欣哉さん・プロダクトデザイナー 鈴木元さんインタビュー

カチャカの開発は、強力なパートナーに支えられて進みました。デザインやクリエイティブの観点では、デザインイノベーションファームのTakramが参画。カチャカ本体と家具のプロダクトデザインは、GEN SUZUKI STUDIOの鈴木元さんに担当いただきました。この記事では、Takram代表の田川欣哉さんとプロダクトデザイナーの鈴木元さんに、カチャカのコンセプトやデザインを磨き込んでいった過程をうかがいました。


技術・デザイン・ビジネスが一体で進んだプロジェクト

――はじめに、カチャカの開発におけるお二人の担当領域と開発の様子を教えてください。

田川:Takramはデザインやクリエイティブの側面でサポートしました。具体的には、コンセプトデザイン、サービスデザイン、スマホアプリのUI/ UX、ブランドのデザイン、サウンドのデザインなどを手掛けました。

 カチャカのプロジェクトは、これまでTakramが関わってきた中でも最高難度のものでした。工場や倉庫で動いているAGV(無人搬送車)はありますが、家庭の中で動き回る「スマートファニチャー」という市場はまだありません。これが世の中でどんなふうに使われるようになるのか、ユーザーのどんなニーズに対してどんな価値を届けるのか、どんな名前で、どんなキャラクターをもったブランドにするのかといった議論を、カスタマージャーニーに落とし込みながら進めました。
 
鈴木:僕はカチャカ本体とファニチャーのプロダクトデザインを担当しました。手探りで進むプロジェクトだからこそ、アイデアはなるべくすぐに具体化し、それをチームと共有しながら議論を進めるようにしていました。模型や試作品をいくつも作り、実際に家の中に置いたりもしていましたね。エンジニア、デザイン、ビジネスの各チームが週に1回ほどのペースで顔を合わせ、それぞれの仮説を持ち寄って互いに影響を受けながら、少しずつ形にしていきました。

模型制作の様子
居住空間に置いた時にどんな印象を受けるか、都度確認しながら進行した。
カチャカ本体のデザイン案。
機体の形状とファニチャーとのドッキング機構の形がそれぞれ異なっている

田川:私はこれからのイノベーションには、ビジネス(B)・テクノロジー(T)・クリエイティビティ(C) の3つの能力を集約したチームや個人が必要だと考えています。頭文字を取って「BTCモデル」と呼んでいるのですが、実際のプロジェクトで実現するのは簡単ではありません。最初にプランやビジネスモデルを考案する人がいて、それをエンジニアが受け取って仕様化し、最後にデザインチームが具体的な体験設計やデザインを引き取る、という役割分担になってしまうことが多いものです。

 一方カチャカのプロジェクトは、ビジネス・テクノロジー・クリエイティビティの各メンバーが平場でキャッチボールしながら進んでいきました。逆にそうしないと、前例がないプロダクトなので、どこにもピン留めができなかったのです。これを決めたら次にこれが決まって……のような整然とした感じではなく、全部が数珠繋ぎになっていて、お互いが依存関係にありました。それぞれが持っている仮説をどんどん共有をしていって、皆が「確かにそうだね」と腹落ちするところを足場にしながら、またそれを持ち帰って自分のやるべきことをやる。まさにBTCモデルに近い形で進んでいきました。

本体のデザインに込められた意図とは?

――カチャカの本体は、まさに3チームの知見が高度に融合した結果、生まれたものではないかと思います。デザイン面では、どのような特徴があるのでしょうか?

鈴木:カチャカって、生活に馴染む自然さやニュートラルさがあるのですが、同時に、どこかキャラクター性やかわいらしさも持ち合わせている。違うベクトルの要素をバランスを取りながら合わせたのがデザインの特徴なのかなと思います。

カチャカの本体

――なぜそれぞれの要素が必要だと考えたのか、詳しく教えてください。

鈴木:カチャカを迎え入れる家庭環境はさまざまでしょうし、これから個性的なファニチャーが乗ってくる可能性もあります。そのため、いろいろな状況に馴染むニュートラルさや自然さを持ち合わせていなくてはならないと思いました。同時に、自律的に家の中を動きまわるロボットであることも考慮すると、不気味に見えることがあってはいけない。ある種のキャラクター性や、かわいらしさのようなものも必要です。とはいえ、キャラクター性が強すぎるとファニチャーと喧嘩してしまうため、その割合の絶妙さのようなことを考えながらデザインしていました。

 特にこだわったのは、カチャカとファニチャーのドッキング部分です。最初に想定されていたのは、カチャカ本体に大きな溝のようなものがあり、ドッキングするときにはファニチャー側から部品が出っ張ってきて、カチャカ本体の溝に刺さるというものでした。その条件でデザインを検討してみると“機械らしさ”が強く出てしまうことがわかったため、デザイン的な観点とエンジニアリング的な観点をすり合わせながら調整していくことになりました。

デザイナーとエンジニアのキャッチボールで磨きをかける

――現在のカチャカは、ドッキングするタイミングになると、カチャカ本体から円筒のドッキング部品が出てくる仕組みになっていて、通常は凹凸のないなめらかな見た目になっています。シェルフには並行なレールが付いていて、その先にドッキングするための突起が付いています。どのようにして、現在の形状に辿り着いたのでしょうか。
  
田川:カチャカとファニチャーのドッキングを、「カチャカがファニチャーに適切な向きでドッキングできるようガイドすること」と「カチャカとファニチャーを脱着すること」というタスクに分け、それぞれをどんな技術で実現するかを考えました。具体的には、ガイドについてはファニチャー側にレールを設置すれば実現できるのではないか。脱着は赤外線センサーで検出すればできるのではないか、といったアイデアを出していきました。

――デザイン面での磨き込みを行うためには、技術的な領域まで踏み込んで方向性を探ることが必要だったのですね。

田川:はい。エンジニアとデザイナーはやることが違っていて、デザイナーは、プロダクトを人間と調和させるために思考・行動します。カチャカについて言えば、見えるところに溝があったら、消費者は「ここにゴミがたまりそうだな」と思って買うのをためらうかもしれませんよね。こういう点に想像力を働かせ、ユーザーの代弁者になるのがデザイナーの仕事です。

 一方エンジニアは、デバイスやセンサーなどの要素技術をいかにパッケージとして機能させるところまで持っていくかが仕事です。だからエンジニアとデザイナーの共同作業がリンクして初めて、プロダクトとして人に届けられます。

 デザイナーとして必要なのは、エンジニアに対して、筋のいいボールを投げることです。当然技術的な制約があるので、ユーザーの“より心地よい“という球筋を見極めながら、キャッチできる範囲の球を投げることが大切です。キャッチボールを繰り返していくと、そのうちエンジニアリングチームの目線もどんどん上がっていって、「これだとユーザーは使いにくいかもしれない」といった意見がエンジニア側から出てくるようになります。PFRoboticsのエンジニアリンググループの皆さんは本当にタフネスがあって、発想も柔軟でした。ドッキング以外の部分、たとえばLiDARも、最初はもっと突起が高くて目立つものだったのですが、部品を調整し機体への納め方を工夫しています。

――続いて、シェルフのデザインについてもお聞かせください。

鈴木:家具はこれまで固定されている、動かないものでした。部屋は四角いですし、家具も四角い方が理にかなっていました。これに対して、今回は家具が自律的に動き回ります。家具の前提が変わった時に、どういう形が一番自然なのかということを考えました。 

 四角いと、旋回するときに角が出てしまい、どうしてもちょっと怖いんです。旋回のスペースも大きくとってしまうので、狭い住環境ではスムースに動けない。では丸がいいかというと、それではシェルフとしての収納力が少なくなってしまいます。カチャカは、四角と丸の間の形状なんです。「定」ということと、「動」ということとのあいだの形をしているんですね。シェルフはモジュール式になっているので、いろんな使い方に柔軟に寄り添えるようになっています。

カチャカシェルフ
シェルフはモジュール式になっており、段数を減らして使える

カチャカによって生まれる新しい世界とは?

――カチャカは今もアップデートを続けている製品で、ファニチャーのラインナップを広げていくことによっても、新しい世界を切り開いていける可能性を秘めています。カチャカを通じて実現していきたい未来像はありますか?

田川:5月に発売した初期版の"次の次"くらいの構想として、カチャカのシェルフにモノを入れるときに、カメラにそのモノを見せてから置くと、それが何であるかを理解した上で、シェルフのどこに入れられたかを把握できるようになる、というのがあります。

 そうすると「シェルフを持ってきて」ではなく、「ハサミを持ってきて」とモノ単位でお願いできるようになりますよね。そこまでいくと、人間はどこに何が仕舞われているのかを覚えなくてよくなります。モノの名前で呼べば、とにかくそれが入っているシェルフが来てくれて、そこから探せば見つけられる。これが実現できれば、いろいろなことが根底から変わります。片付けをデジタル化し、私たち人間が収納場所を忘れることができる世界が来ると思います。

鈴木:モノを認識できるようになると、例えば、欲しいモノの名前を言うと、ストックルームや床下収納の中でカチャカが動いてくれて、ドアを開けると目の前に準備されている、みたいなことができるかもしれないですよね。そうすると、ストックルームはドアを開けるたびに中身が変わる魔法の棚のようになる。パソコンの検索がデジタルファイルの整理方法を変えた様に、カチャカも物を片付けるという意味を根本的に変えるのかもしれませんね。

――カチャカが進化し、私たちの暮らしを変えていく。ユーザーの皆さまとともに、その過程を楽しんでいきたいですね。本日はありがとうございました。


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